研究内容

疾患・障がいを有する方を対象としたリハビリテーション、健常者が行う健康づくり運動、スポーツ競技者が行うトレーニング、程度や種類の違いはあれども全て“身体運動”であり、その主体は骨格筋の収縮に伴う力の発揮により行われます。骨格筋を中心とする運動器には、「使えば使うほど強く大きくなる」「使わないと衰える」「使いすぎても不具合を起こす」という基本原則(古典的なルーの三原則)が当てはまり、この変化し得るという特性を“可塑性”と言います。当研究室では、運動や加齢、不活動、栄養状態、疾患発症といった様々な変化に伴う運動器の可塑的変化の制御機構解明を目指し、ヒトや実験動物、培養細胞などを対象に、生理学・生化学・分子生物学的手法を用いた研究を行なっています。

マウスヒラメ筋の免疫組織染色像
(緑: ラミニン、赤: 遅筋型ミオシン重鎖)

骨格筋の量的・質的変化を調節する細胞内制御機構の解明

骨格筋の量的変化とタンパク質代謝の概念図

骨格筋は終末分化した多核細胞である筋線維の集団であり、成熟骨格筋では筋線維の総数は大きく変化しません。骨格筋量の増加(筋肥大)や減少(筋萎縮)といった組織全体の量的変化は、個々の筋線維の大きさが変化したことを意味します。この筋線維サイズの変化は、細胞内におけるタンパク質の合成と分解の出納バランスによって規定されます。つまり骨格筋量の増加や(または減少)とは「骨格筋細胞内のタンパク質合成量がタンパク質分解量を上回った(下回った)状態」と定義することができます。我々の研究室では、運動トレーニングや不活動に伴う筋タンパク質代謝変化の制御機構の解明を目指し、各種の遺伝子改変動物や細胞培養系を用いた研究を行なっています。

冬眠動物はなぜ寝たきりにならないのか?
~冬眠動物における骨格筋萎縮耐性獲得機構の解明~

ヒト骨格筋の場合、ベッドレストなどの不活動状態に陥ると筋タンパク質量・発揮筋力は1日あたり0.5-1.0%程度の割合で減少し、筋肉量の減少が加速されます。しかし冬眠動物の場合、約半年間におよぶ長期間の不活動状態と栄養不良(絶食)を経験するにも関わらず、筋重量や発揮筋力が冬眠前後で全く変化しない (リスの場合、Andres-Mateos et al., EMBO Mol Med 2013)、または一定程度は減少するがヒトに比較して非常に軽微である (クマの場合、Miyazaki et al., PLOS ONE 2019) という、骨格筋の萎縮耐性ともいえる未解明の生理機能が存在します。一方で、たとえ冬眠動物であっても、非冬眠期に活動量が制限されると筋肉量は大きく減少することも示されています (Lin et al., J Exp Biol 2012)。つまり冬眠動物における筋肉量維持機構は、冬眠に伴い誘導される何らかの生理学的応答の結果もたらされる適応システムだと考えることができます。我々は、冬眠動物が有する「衰えない筋肉」という特徴に着目し、その獲得機構を解明することで、最終的にはヒトの廃用症候群やサルコペニアの発症予防法開発、効果的なリハビリテーション手法の提案などを目指しています。

広島大学大学院医系科学研究科

生理機能情報科学

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